髙野 茂様(新潟県・新潟市)

自分史『日々是好日』

 

今年6月、自分史『日々是好日』を上梓した髙野茂さんにお話をお聞きしました。

ご自宅にうかがったのは、長年の夢だったというチベット巡礼の旅から帰って数週間、佐渡88ヵ所霊場巡礼から帰ってまだ2日後のこと。鯉が泳ぎ、端正されたお庭から丁寧な暮らしぶりが見てとれる。床の間には四国巡礼をした際のご朱印の掛け軸がかかり、仏壇には鬼籍に入られた先祖や親戚12名の写真立て。そして、帰国したばかりのはずなのに、チベットの記録と写真が既に1冊のアルバムにまとめられ、こちらが行った気になるほど鮮明にお話しくださる。「ツアーの中では最高齢。若い人が降参した山も登るもんだから、たまげられましたて」と快活に笑う姿からは、85歳という年齢を忘れてしまう。

髙野さん

▲親しい仲間が7・5調で「いつもニコニコばかみたい」と言うんですわ、という髙野さんの笑顔

 

 

Q.『日々是好日』をまとめようと思ったきっかけは?

日経新聞の「私の履歴書」に触発されたのが17年前。兄弟は家の歴史や来し方をある程度知っているが、孫たちは知らない。だから孫に遺したかった。ただ、書き遺そうという思いはあっても文章力の問題もあり(笑)、一念発起して自分史講座とエッセー講座を受講した。70年以上にもわたる日記や写真、アルバムなどの資料整理に3年を費やし、ようやく書き始めたのが平成13年。遅々とした歩みではあったが、親しい人の他界が相次ぎ、自身の入院や物忘れがひどくなったこともあり、当初の米寿記念の刊行を前倒しした。

Q.よく諦めませんでしたね

言ったことは絶対にやるというのが信条。孫たちに大事なのはやり遂げること、と言っている手前もあってね(笑)。東頸城郡という山間僻地に生まれ、9人兄弟の6番目。学歴のない者が学歴会社に入り、ある程度人並みに伍していくというのは、正直大変だった。電気主任技術者の国家試験に合格するために10年間、全精力をつぎ込んだ。高等科のときは戦争末期でほとんどが勤労奉仕。電気の理論は数学や物理だが、サイン、コサインなんて全くわからず数学の勉強から始めた。

Q.その苦労のおかげで今日がある

73歳でリタイアして12年。その後の人生が実にすばらしい。今は朝3時に目覚め5時までは読書、5時のニュースを聞いてから田んぼ道を小一時間散歩し、五頭山の方からあがるお日様に拝み太陽に手をかざす。日中は尺八に畑に、ボランティアでやっている茶の間大学の教授やら…。

Q.教授業もですか!(笑)

ほとんどが高齢者だが、今は仏教について噛み砕いて伝えている。大きな字で資料を作って「お釈迦様が言うようにあらゆるものは縁で結ばれている。隣にいて挨拶もしないような情けない生き方はしないで、大丈夫かねーと、声をかけ助け合って生きていきましょう」とか「最近は三途の川も混雑しているらしい。橋を渡らせてもらったり、高速船に乗せてもらえるようにいいことをしましょう、足腰の悪い人は特にね」という具合に(笑)。

Q.どうしてそんなにいろいろと?

肉にしろ魚にしろ、誰もが命をもらって生きている。それがすでに罪、だから施しをしなければ。お金がないとしても、優しい言葉をかけるとか(愛語)、日常の中でできる方法はいくらでもある。歳をとったらそういう生き方をするべき。だからやることは無限にある。平均寿命を超えているし、自分自身はもうけの人生。こうやって好きなことができ、こんな幸せはない。その分はお返ししていかないと。

Q.それで在家僧侶に?

18年前、インドの仏跡を僧侶と一緒に巡礼して釈迦の教えに感動して以来、仏教をもっと知りたいとの思いが高じて、在家僧侶の資格をとった。<RUBY CHAR=”今日”,”こんにち”>の幸せは先祖のお蔭だから毎年供養しようと、お盆には兄弟親族がふる里に集まり、私がにわか導師となって法要を営んでいる。法事が終わると、恒例の隠し芸や盆踊りで先祖と一緒になって踊りまくっているが、これもわが一族の立派な伝統文化(笑)。

 

写真

▲「毎朝、お経をあげて両親や兄弟に話しかけてるんですて」と髙野さん

 

 

Q.これからは?

インド、四国、中国、熊野古道、佐渡の巡礼の旅を終え、あとは米寿までに越後88ヵ所霊場巡りをやり遂げたい。その後は、113歳で逝った母にしたように、盆踊りと紅白まんじゅうで送ってもらおうかな(笑)。

 

★「やらなきゃいけないことはどっちみちやらなきゃいけない。ならば先手必勝」の言葉に、本当にそうですと頷きながら、ギリギリにこの原稿をまとめている自身。なんだろう、この髙野さんの感謝力と潔さは! 釈迦の教えで一番大事だと思っているという「因果応報」、自己責任を貫いて生きたいという姿勢がそうさせるのか。先祖に感謝し、その日その日が最上、最高の「日々是好日」の実践者。そして笑顔と感謝が幸せを招くというまさにその具現者。ワハハハハ笑いに刺激されつつ、終始清々しい気持ちに満たされた。   (木戸敦子)