パティオ俳句会「リリック鍛錬会」

主宰 環 順子 様(東京都・豊島区)

 

1月10日(木)、場所は池袋にある東京芸術劇場。ここで10時から17時の長丁場で俳句とエッセイの会があるとお聞きし、どのように開催されているのだろうとお邪魔しました。

 この「パティオ俳句会」は、環順子氏が故小澤克己氏の「遠嶺」、その流れを汲む「爽樹」を経て、昨年平成30年4月に創立した新しい会。その勉強会の一つが「リリック鍛錬会」であり、俳句とエッセイの融合により新しいポエジーを描くことを目標としている。

 さて、7時間にわたり、どんな展開がなされるのか―。

 

▲統率力、企画力、何をしても一級の女丈夫 環順子主宰

 

まずは、新年句会ということでご挨拶・諸連絡に続き、会員から、当日の席題3句と雑2句が発表される。

席題「日脚伸ぶ」「冴返る」「梅」、雑「筆」「肥」

すかさず主宰は携帯でどちらかに電話をされる。聞けば、伊東にお住まいの会員に席題等を告げ、その方も即句を作り、翌日には投函されるのだとか。

12時が句会スタートなので、それまでの約1時間半の間に、この季語と一文字を入れた5句を作り、昼食も済ませておく。30分も経たないうちに主宰が席を立ち、投句を済ませ「木戸さん、ランチに行きましょう」と声をかけてくれる。「えっ、もう終わったの!?」と思いながら一緒に階下に行く道すがらお聞きすると、昨日も席題10句の句会に参加したばかりとのことで二度びっくり! 皆さんと一緒に部屋でお弁当を食べながら、北は北海道、南は島根まで、それぞれの出身地のお正月やお雑煮、方言の話題で盛り上がる。

さぁ句会開始。5句×8名 = 40句から各人5句、特選1句を選ぶ。◎は主宰特選

 

梅が香や客越後より来たり        環

会員…お客さまも梅も初句会にふさわしい/客が梅の香をつれて越後よりやってきた/ほのと香って挨拶句としてとてもいい。こんな句がすぐにできたらいいわ/それも一番で主宰の句、できすぎ(笑)。

主宰…俳句は挨拶ですからね。でも「梅」の席題がなかったらできなかった。お客さまより客と言った方が格調高い。

 

傷深き木彫の盆や冴返る            佐山

会員…「冴返る」の季語が効いている/物に心を寄せている感じがいい。

 

節分の鬼より肥ゆる天邪鬼        すずき

主宰…片意地を張っている人のことを言っているのか、踏んづけられている天邪鬼のことなのかがわかりにくい。「やっぱり節分くらいしようか」という天邪鬼な人として解釈した。

作者…自分のこととして言いたかった。「鬼より肥ゆる」で客観的な視点になってしまった。

 

小刀の銘は「肥後守」魚は氷に              環

会員…「は」は入れなくていいのでは?「肥後守」まで一気に詠んだ途端に魚は氷に、緊張感が見事にほぐれてうまいな、と/ちょっとはぐらかした感じのおどけた季語。これが「冴返る」ではおもしろくない。

主宰…銘「は」と入れないと三段切れのようになる。

 

あてどなく風の重さを踏む梅見              神原

会員…踏みしめながらという意味? 「風の重さを踏む」に惹かれた/「風の重さを踏む」がわからなかった。

作者…踏んでもらわないと困る。春先はだんだん風が軽くなるが、梅見をしたときはまだ風が冷たく重かった、ということを言いたかった。

 

▲男1点 司会進行の神原さん。男女の別なく自然とそこにいらっしゃる

 

心経を唱へ鎌倉梅探る     奥田

主宰…鎌倉はたくさんお寺がある。それらを辿りながらの探梅行、いいですね。

 

筆順の一、二、三四日脚伸ぶ      桜井

会員…厳寒のなかではそんな悠長に一、二、三四なんて言っていられない/日脚が伸びてくる季節、どういう字を書いたのかなーと思いを馳せた/一、二、三四と日脚伸ぶがいい。

 

枝折戸の細き灯や梅屋敷            花島

会員…奥ゆかしい日本庭園の風情、きれいな句。

 

日脚伸ぶ渚は光るラプソディー              神原

会員…聞いたことのあるフレーズだが(笑)、字を見ただけできれいな光景が広がる/日脚が伸びて風が光る、明るい景色。えーっ神原さん!?ラプソディーなんて句は作らないと思った/私は採らなかった、字でわかったもの(笑)。

 

◎一葉乃自筆原稿松雪草            片岡

会員…よく松雪草をもってきたね。苦労のすえ若くして亡くなった一葉と松雪草の取り合わせで採った。

主宰…一葉のひっそりとしたさみしさと松雪草がとても合っている。これがスノードロップだと興ざめ。

作者…12月に一葉の直筆原稿が見つかったという記事を読んだ。ちょうど今日「筆」が出たからしめしめと(笑)。全部漢字にしたかったので乃を使った。

▲季刊俳句誌『パティオ』通巻第2号 スペイン語で「中庭」

 

夕まぐれ遠富士と月冴返り         奥田

主宰…「遠富士と月冴返る夕まぐれ」でもいいかも。好きずきですが。

作者…こちらに変えます(笑)。

 

小肥りの裏返されし初灸            桜井

主宰…私みたい、この前、初灸に行って裏返されてきました。

会員…あれ、主宰の句かと思った。桜井さん、主宰のことを詠んだのね(笑)。

 

冴返る鏡に謀る紅の濃さ         花島

会員…この謀るだからいい。紅の濃さが効いている。

主宰…冴返るは、せっかく春になったと思ったらまた寒くなってきた、という意味でプラスの季語ではない。今日だけ紅を濃くしなければならない、謀りごとがあるのね、この人は。神原さんじゃないわね(笑)?

作者…花島です。

主宰…今日は薄紅だから謀りごとはなしね、よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄棒の端の錆びたり日脚伸ぶ       片岡

主宰…鉄棒の錆びの句はよくある。逆上がりして夕焼けを見たとかね。でもいい句。

 

◎秒針の音軽やかに日脚伸ぶ     佐山

会員…類句はあるかもしれないが、日脚が伸びるとともに秒針の音も軽やかに。雰囲気が伝わってくる/雪国の陸上部だったので、即ストップウォッチをイメージした。春が近づくとグラウンドで走れる! という待春の気持ち。

主宰…季語は不思議。これが「日脚伸ぶ」ではなく「日短か」だとダメ。「日短か」が兼題であれば、また違ってくる。春の訪れを喜ぶ気持ちが軽やかに詠まれている。

 

パステルの色鉛筆や春隣            すずき

主宰…パステルカラーで春、そして色鉛筆、類想はあるが春らくしていい。

 

◎探梅や矢立の筆の有りどころ              花島

主宰…しっかりとした句で、探梅や、で切ったこともいい。芭蕉を想起させる。私だけの特選だったが、矢の字が天に見えて採らなかった人もいたよう。天立ではなく矢立だと思えばどうですか?

会員…とてもいい句(笑)。

主宰…梅探る、ではなく、ここはやはり「探梅や」。出歩く季節になって、矢立の筆はどこにあったかなーと、その存在感を感じさせる。

会員…王道俳句だねぇ(笑)。

 

5分の休憩をはさんで、先月の5句とその1句にまつわるエッセイを各人が朗読し、その後、皆さんで気になるところを指摘し合う。以前は作家の指導を仰いでいたが「もう口をはさむ余地がなくなった、皆さんでおやりなさい」とお墨付きをいただき、合評形式で進めている。

昨年亡くなった母との思い出を書いた方は、読みながら想いがあふれ涙声に。他からも鼻をすする音が重なる。義母のレシピの話を書いた方からは、晩年ぼけた義母が「息子の嫁になってくれ」って言うから「いやです」と言ったのよ、と、エッセイにはないエピソードも飛び出す。涙あり、笑いありのあっという間の7時間。そして半年に1回、これら6回分のエッセイをまとめた冊子を作り、宝物を増やしてしく。汗をかいた分、得るものの大きい会だ。

 

 

▲喜怒哀楽の色濃い充実の7時間

 

 

★席題5句ですら大変なのに、さらに2週間以内にエッセイをまとめるという課題が課せられ、次の回でその作品が俎上に載せられ、ああでもないこうでもないと揉まれ、自分なりに修正を加え再度提出、と常に休みはない。自虐的な営みに、思わず「これSM句会ですね」と口走ってしまったほど。

「文は人なり」と言うが、一句に端を発し、その人だけの経験と言葉と想いが掛け合わされた物語は、唯一無二のその人そのもの。うまくなりたい、そして自分も人もよくしたいという他者への関わりが尊い。会を終えたときの、全力で走り抜けたような皆さんのすがすがしい表情。人間っていいな、すごいな、という気持ちが自然と湧いてきた。(木戸敦子)