俺たちのまのあたり句会(東京都・港区)

中原道夫(「銀化」主宰)、榮猿丸(「澤」同人)、

関悦史(「豈」同人)、高柳克弘(「鷹」編集長)

 

9月16日(日)、NHK文化センター青山教室で行われた「俺たちのまのあたり句会」にお邪魔しました。前回の講師は、宇多喜代子、星野高士、岸本尚毅、櫂未知子。今回は中原道夫、榮猿丸、関悦史、高柳克弘といった豪華な顔ぶれの男性俳人をゲストに、選句・句評を「目の当たり」にしながら俳句を学ぶというエンターテイメント句会。各人より「最近感動したこと」を交えて自己紹介がなされ、それぞれの兼題で詠んできた句を互選、選評をします。

 

▲10月10日に20周年を迎えた「銀化」主宰 中原道夫氏(右) 俳句王子こと「鷹」編集長で奥様は俳人の神野紗希さん、高柳克弘氏(左)

 

①「ガラス」出題・中原道夫

②「撫」出題・榮猿丸

③「グーグル」出題・関悦史

④「時」出題・高柳克弘

⑤「友」の計5題

 

◎まずは本人以外が採った3点句より

薔薇と捨つ我が血の付きしガラス片       高柳

榮…血と薔薇でやりすぎだがナルシシズムは悪くない。薔薇を活けた花瓶を割った、その片づけで指を切り血の付いたガラス片と一緒に捨てた。やりすぎも、この句の場合はいい方に出ている。好みの分かれる句。

中原…今言われたように、血と薔薇は非常に近い、まずそこは指摘できる。俳句は一人称で作るのが基本的な了解、「我が」は省ける。ガラス片の鋭利なところに血もついて、花びらを一枚ずつ剥がしたエッジがとんがって巻かれているようなイメージも重なる。

関…俳句におけるガラスは、綺麗な物体としてかかれることが多い。それを「我が」として無理矢理自分に引き寄せた、この引きの強さ。バカにしているわけではなく(笑)、ガラスという無機質なものを自分に引き付けてこれだけかっこよくした。ナルシシズムもあるが、クールで抑えがきいている。

会場…自分でも作れそうな句だな、と(爆笑)。

高柳…プロとしてはちょっと物足りないでしょうか (笑)。つき過ぎは気になったが、ベタな取り合わせでも取り合わせの面白さや、その結び付け方、ものの捉え方によって、新鮮な句を作れないかと考えてみた。

文鳥は愛撫を拒み秋時雨            高柳

関…文鳥といえば可愛いと相場は決まっているが、それが愛撫を拒んでくる。そこに小さくて可愛いだけではない、生物としての意思ある文鳥が出てくる。外は秋時雨、愛情を注ぎたいが違和感や齟齬がある、ふられた男の方にもかっこよさがある、そんなシーンのような感じもして、不快ではない。

さっきの薔薇の句と同じでクールな手ごたえに落ち着いている。私は俳句で最初から感動を書くのは好きな方ではないが、この2句はどちらかというと感動したことが先にあるが、俳句の作り方として、これだけ様になるものを作るのは意外と難しい。自分の感情に自分がおぼれて終わってしまう。作った結果として、自分はこんなことを考えていたのかと感動する、あとから分析して気が付くのが理想。

中原…私は3人の父親くらいの世代、昭和40年代頃、手乗り文鳥が流行った時期があった。いつもは慣れて肩に乗ったりしている文鳥が、時にヒステリックな状況になる。取りつく島のない気分が、うまく秋時雨に回収されている。一方で、秋時雨というメロメロに情緒的なところにシェルターとして逃げ込んだのではないか、という反対の見方もできるが、秋時雨をつけておけばそんなに瑕瑾はなく、全体としてうまくまとめた。

榮…この前後で、ドラマが立ち上がってくるような、想像をかきたてるいいワンシーンを描きとっている。小さな愛玩動物に拒まれる、小さくて硬い木の実のようなわだかまり、ひょっとしたら、この文鳥は彼女かもしれない。ちょっと肌寒い秋時雨、さっと影が差す、そういった心の陰影をよく表している。よく言われるのは、室内は自分の内面の象徴。室内、そしてその外側に秋時雨、二重に封じ込められているような、逃げ場のない鬱屈した思いも感じられて、さすが俳句王子だなと (笑)。

▲10月からNHK講座「俳句の窓」を始めた「澤」同人 榮猿丸氏

 

赤とんぼ手配写真みな友の如し              関

高柳…手配写真をこういうふうに捉えるのかと、意表を突かれた。「みな友の如し」の意味を過剰にとると、犯罪を犯すような人も、普段何ともない生活を送っている我々も同じ人間、その境目は予想外に薄い、というメッセージ性の強い句になる。手配写真が卒業アルバムの写真にちょっと似ているなぁといった一瞬のふとした感慨なのだと思う。手配写真というどぎついものを、赤とんぼが懐かしさを支え、全体として日本の郊外の一典型のような印象を持って迫ってくる。

榮…一読して笑ったおもしろい句。赤とんぼは郷愁を誘う季語、そこに懐かしき友。この2つのイメージはとても近いが、その間に手配写真、このねじれ方がおもしろい。

中原…手配写真というドキッとした語句を赤とんぼが中和している。私は深読みが大好き。前科何犯という凶悪な連中、最低1、2回はムショに入っている。ムショでは友だちだったのではないか、ムショ友だちがまた出ているぞというバカバカしさに笑った(笑)。

関…一言言っておきますと私は刑務所に入ったことはありません。制作動機は非常にくだらないがこんなに点が入った。皆さんの鑑賞を聞いて実はいい句なのかなと(笑)。

▲10月からNHK講座「土曜俳句倶楽部」を始めた「豈」同人 関悦史氏

 

◎2点句

津波映像予告テロップ撫子映し              榮

関…震災をどう詠むか、俳人も結構プレッシャーがかかっていた。津波映像というどぎつい映像が出るときに、見たくない人はここで切ってくださいという予告で出すものでしょうから、不穏なものを背負った撫子になっている。その辺りの、心理的ないろいろな動きを、ものというか、映像の在り方だけで、薄っぺらく書いて成立させている。その背後に現代の生活の巨大な変化というものを感じさせる。感動的なことを厚みをもってべったりとかいていないことで、効いている句。

高柳…かなり重い身につまされるテーマを、あえて軽く詠んでいる。重いテーマを重い言葉で詠むと却ってその内容が伝わらないことがしばしば起こり得る。こういう軽い書き方だからこそ、読者に深くものを考えさせると感じた。

よく問題になるのは、テレビ映像の中に映った季語、例えば桜前線北上中といった桜を詠んで、季語として働くかどうかということ。その辺り、中原さんは?

中原…絵に描いた桃は、桃として扱っていいのか、という質問がきたとき、その絵の大もとに桃があったのだろうから、写生して色を塗って桃らしくなった紙の上に描かれた桃も一応季語として認めなければならないだろうという立場をとっている。この撫子はこれでいい。

高柳…私もこの場合の撫子は季語としてとっていいと思う。絵の中の季語、なかなか難しいものではあるが、撫子で秋だと、穏やかな秋の日和を想像させる。その中で侵入してくる津波映像予告テロップが、まがまがしさを増してくるのではないかと。

榮…このモチーフは早い時期から書き留めていたが、発表するのにためらっていた。つい最近もこの映像が流れていて、「撫」の兼題で句ができなくてストックを使ってしまった(笑)。下五の「撫子映し」が字余りだが、ソファに座ったような座りのいい言葉より、逆に腰が浮いているような感じが合っているかもと作った。

 

グーグルにエロ・グロ・神ななかまど    高柳

中原…この兼題を聞いた時、出題者はいやなやつだなぁと(笑)。昭和の前衛、アングラ文化のキャッチフレーズとしてエロ、グロ、ナンセンスがあったが、ナンセンスではなくゴッド、神器。「OKグーグル」で何でも調べてくれる、これがないと生きていけない、という人たちがいてほとんど神のような存在。ななかまどの真っ赤な映像が、十分効果をあげている。

榮…この句には大変感銘をうけたが、兼題が大変難しく、関さんに殺意すら感じた(笑)。グーグルは調べると何でもでてくるが、究極はこの3つなんじゃないかと思わせる断定の力がある。ナンセンスの部分に神をもってきた皮肉も効いている。音とリズムもよく、Gの音、グーグル、グロ、ゴット、その間にロのエロ、グロ、ドのゴッド、ななかまど、今日の句の中で一番好きだった。

関…インターネットの普及で、根底から社会の変化が生じた、それに対して俳句はどういう応対ができるのか、プロの方々に作ってもらいたかった。

 

◎1点句

石膏像で割られしガラス秋高し              関

リアガラス曇り縞なす雨月かな              榮

撫ではじめ共食ひとなる水母かな           関

くさじらみ猫撫で声に誘き寄す              中原

大いなる空欄としてグーグル冷ゆ           榮

真四角なる西瓜グーグルなる無意識        関

パブ夜長おんなじ腕時計の奴         高柳

 

▲2部では参加者全員の句が講評される

 

★その後、受講者46名が事前に投句した兼題「月」より各講師が選をし(各人10句うち特選1句には景品も)、すべての句を講評する。会場からの質問にも、俳壇の内幕や本音も交えてフランクにお答えいただくなど、紙面では紹介できないようなことも多々!? 砂かぶりの、まさに間近な場所で俳人たちの人柄に触れつつ、砂ならぬ、言葉のシャワーに浴することができるお得な3時間、あっという間のまのあたり句会でした。

次回の開催は11月18日(日)、ゲストは今井聖、坊城俊樹、岸本葉子、大高翔の4名、受講者の兼題は「小春」。自分の句が俎上にあがる楽しみと、目の当たりにできる句会の醍醐味、ぜひ味わってみてください。

 

photo by nagaishi

お申込みはNHKカルチャー青山教室まで

TEL 03(3475)1151