纏(まとい)句会

主宰 伊藤伊那男様

連絡先 「銀漢亭」

東京都千代田区神田神保町2 ― 20

TEL 03 ― 3264 ― 7107

 

まだ若葉まぶしい5月27日、日本橋「鮨の与志喜」で開かれた第81回纏句会にお邪魔しました。主宰は「銀漢」主宰で神田にある「銀漢亭」のご主人でもある伊藤伊那男さん。

本日の兼題は「卯月」「蛇」「山女」「石楠花」、席題は「峰入り」「南瓜の花」「明易」と当季雑詠3句、合計10句出しの10句選、うち1句を特選とします。今日は特別に主宰の母校伊那北高校の後輩で「海程」同人、ニューヨークから帰国中の月野ぽぽなさんがゲスト参加。合計12名の句会スタートです!

 

小綺麗なお鮨屋さんのカウンターを横目に、不肖木戸も「峰入り」って何!? 初めて聞いたんだけど…と、当日の席題を半ばヤケ気味にでっち上げる。個室にひしめき合いながら、選句、披講をした後はカウンターに場所を移し、美味しいお酒とお料理をいただきながら、各人が採った特選について講評をし、あとは自由に意見を述べていく。

 

▲主宰の伊藤伊那男さん(左)とゲストの月野ぽぽなさん

 

 

朝の茶の香り卯月と思ひけり        大和

新茶とは言わずさらりと朝の茶と詠んだことで、落ち着いた生活がにじみ出た。

峰入り(※)の先づの一歩に躓けり     伊那男

峰入りを調べたら、初めて参加する人も結構いるらしく辛いだろうな、と。なかなかうまくなじめない辺りをうまく詠んだ。

※峰入り…修験者が奈良県の大峰山に入って修行すること。

山寺の裏のがれ場の花南瓜            直

お寺で煮炊きした南瓜の種を裏のがれ場に放置したら、ひとりでに花が咲いていた。その花をまた精進料理に使うのかも。

商談を東踊の幕間に        健彦

まさか大学の教授の句とは(笑)。お客さんを招待してそこで商談を絡ませる。ビジネスとしてはある。

この句は特選にしようか悩んだ。東踊りを見に行く人はだいたいお座敷に行くような人なのでお呼ばれで来ている。普段お座敷では会わないが「おぉ、あんたも来てたのか」と商談が始まる、そんな空気を見事に捉え、京都の都踊りに対しての東京の空気を伝えている。

花南瓜黄のくたくたに雨の中           高水

作者の名前を聞いてああなるほどな、と(笑)。くたくたにという軽さと雨の中という平易な言葉、なかなかできないがこういう句を作りたい。

水を足す度に巻かるる屑金魚  秋葉男

水の渦に巻かれるということだと思うが、そこがちょっとわかりにくい。屑金魚の宿命。

蛇消えてなほ草叢の揺れやまず  健彦

蛇が見えなくなってもまだ叢が動いている。蛇の長さ、特性がうまく出ている。

お告げなどしさうな蛇の舌の割れ  秋葉男

蛇はちょろちょろと舌を出し、怖いところがある。蛇をあがめてきた歴史がわかるような、思わず見入ってしまう感じがよくでている。

告ぐるたびくちなはの丈長くなる  伊那男

この句のおもしろさは「そこで蛇に会っちゃってさ」と、人に言うたびにその長さが長くなっていくところ。蛇のおどろおどろしさを伝えている。

糸流しまた糸流し山女釣り              新祇

これは山女を釣っていないと作れない句。何回も糸をしつこく流すんですよ。さらっと詠まれていて感心した。

 

ぽぽな…こんないい会があるのかと今日は心底楽しんだ。ニューヨークも25年目なので25句選ばせていただいた。

一声もて一叢制す行々子     洋征

葭切の声が叢一帯を制している様子が、一と一でうまく表現されている。

石楠花や風の澄みゐる比叡口           子貢

比叡口の様子、心の様子がよく出ている。

琥珀色残るグラスや明易し              新祇

ブランデーではなく、琥珀色といったところに技が効いている。

主宰…これ角瓶クラスだよ(笑)。

並足(※)の馬の一列夏木立 大和

並足がよくて、更に夏木立との取り合わせのうまさ。抑制の効いた美しい絵のような句。

※並足…速くも遅くもない普通の足並み。

◎特選三句

どくだみや隠れん坊の鼻先に           大和

隠れん坊で何かの陰に屈んでいた。郷愁もある。

香水やマンハッタンに昼と夜           海村

よくぞおっしゃいました。マンハッタンに昼と夜、でまずは私に挨拶をしてくださった。そして昼はビジネスの顔、夜は歓楽街の顔。そこに香水。昼の香水と夜の香水の違い。俳句の美で、ごちゃごちゃしたマンハッタンをよく掬い取ってくださった。

主宰…動詞を何も使っていない。だからくっきりと印象に残る。

石楠花のなぞへ(※)に岩を踏みて立つ  大和

※なぞへ…ななめ、斜面

なぞへという言葉を教えていただいた。くらくらしちゃった。

主宰…作り方は地味だがしっかりとした写生句。よくニューヨークの人が採ったね。

ぽぽな…斜めになっているとこに咲いている石楠花。そこからにじみ出てくる強い情感がある。今日はいい句にたくさん出会えてうれしかった。

 

主宰…ぽぽなさん、ありがとう。来年も待ってますから。まぁ、生きていればだけど。だからこそ一期一会。今日の句会がもう一度再生できるかといったら絶対にない。芭蕉の時代なら奥の細道で一生涯に一回だけ行き合って、句会を持つ。今生に一回限りの句会を大事にすること。この句会は一生に一度しかないと思って句を作る、選ぶ、清記をする、披講をする、これだと私は思う。歳をとると切実に思う。来月会うからいいやと思ったら絶対にいい句はできない。永遠に続く話はない。

◎特選二句

二句とも私しか採っていない。ダメかなぁと不安になるとき(笑)。選句は本当に難しい。

峰入りを称え熊野の木々騒ぐ           ぽぽな

今日の題で作ったんでしょ? 躍動感があって峰入りを詠んで珍しい句で、わっと立ち上がってきた。

浄土への道はあやうげ練供養           健彦

観音菩薩に扮した二十五人が練り歩く、奈良の当麻寺の練供養が有名だが、その姿があやうげな様を見て、人の世の悲しさや人の弱さをうまく詠みこんだ。

 

山女釣る早瀬の渦を腰に巻き

という句があったが、上流にいるのは岩魚、その次が山女で一番下が鮎、と棲み分けがある。そういうことを前提にしないと、山女の本当のところはわからない。例外としてあるかもしれないが、一般論として山女は腰がつかるほど深いところにはいない。

一番下界には寡(やもめ)がいる/それは岩(いわ)魚(な)い/そういうことも鮎(あゆ)。

主宰…それを俳句に活かせばいいのに(笑)。

 

▲歳を重ねてもなお爽やかな皆さま!

 

★急な病で急遽来れなくなった方、予定変更で来られるようになった方、時空を超えてニューヨークからいらした方、主宰が強調されていた一生涯で一度しかない一期一会の句会を、取材という立場にありながら堪能させていただいた。普段は男性だけの句会だが、どんな状態・状況であろうと、その時々の最善のパフォーマンスを出す面々であろうことは容易に想像できた。(木戸敦子)

 

▲主宰の『銀漢亭こぼれ噺―そして京都』