「みすゞ俳句会」南箕輪俳句会(長野県・伊那市)

主宰 城取信平様

 

昨年秋に取材のお願いをしたものの都合が悪くなり、主宰の城取さんの「冬は寒すぎるから暖かくなってからおいで」の言葉を受け、7月2日ようやくお邪魔することができた「みすゞ俳句会」。東京経由で行ったので、起点からの所要時間は4時間程度でしたが、新潟のお隣り長野県といえども伊那の位置するところは南側、むしろ愛知や岐阜に近い。でも遠いだけに天啓あり! なんと、城取さんと同じ伊那北高校出身の俳人で、2017年角川俳句賞を受賞した月野ぽぽなさんが来られることが、会場に行って判明。

 ちょうどお住まいのニューヨークから帰省中とのことで、2年前にも銀漢俳句会の「纏句会」取材の際に帰省中のぽぽなさんがゲストとして来られ、今日また偶然にここ伊那で再会! 主宰からも「なかなか私どもには理解できないような俳句もつくるが、将来を嘱望される俳人である、そんな人が来てくれてありがたく思います」とご挨拶。

 当季雑詠の2句出句のなかから5句選、主宰が順番に講評します。

 

▲城取信平主宰(左)とゲストの月野ぽぽなさん

 

◯4点

失意には泰然であれ夏座敷        四温

城取…夏座敷に対座して、ある人の失意に意見をしているか、あるいは作者が失望し夏座敷の涼しい中でしっかりしなあかんよと言っているか、そんな内容かと思う。ただ「失意には」ではなく「失意にも」としたい。「失意には」とすると、人生訓に聞こえる。「失意にも泰然であれ夏座敷」、これで夏座敷の涼しい座敷の様子、そこに座っている姿が見えてくる。四温さんご自身の失意?

作者…私の思う以上に色々と言っていただきありがたいのですが、これはただの思いつきで…(笑)。

城取…思いつきって言っちゃだめだよ(笑)。これはちょっと失望したこともあったが、自分にがんばってと言い聞かせた、とか言ってくれないと。四温さん正直なんだ。

◯6点

初夏の風負い軽やかに旅人なり              節子

城取…先日の山梨の吟行会を詠んだ句だと思うが、今日のゲストのお二人(ぽぽなさんと木戸)がまさにそう。初夏の風を軽やかに背負って、句会に参加した。転置して「初夏の風軽やかに負い旅人なり」の方がいいかな。いかにも旅行者らしい感じがする。俳句はリズムも大事。読んだときさっと体に入ってくるような風、これを詠むことが大切です。

 

▲月刊『みすゞ』7月号(通巻833号)

 

◯4点

剪定の松軽やかに座を占める    民子

城取…「座を占める」より「座を占めり」でしょうね。「剪定の松軽やかに座を占めり」その方が存在感がしっかり出る。「庭木は剪定が必要だから、そんなものは植えない方がいい」と言う人もいるが、植わっているものは仕方ない、先祖の贈物だから大事にしないと。

◯4点

梅雨湿り水琴窟の奥底へ            ゆう子

城取…うっとうしい梅雨だから、水琴窟も臺の下の方で鳴りましたという句。晴れた日の水琴窟は「カンコーン」ときれいな音だが、梅雨の日はそうは鳴らない、それを詠んでいる。

◯6点

紫陽花や鼻くすぐりてパン焼ける          美智子

城取…パンが焼ける匂いで鼻がむずむずしたんだろうね。「パン焼ける」と「紫陽花」の取り合わせが面白い。

◯1点

遅霜に苗が底つきよく売れる     由江

城取…需要と供給だね。底をつく、というのは蓄えていたものがなくなるということ。遅霜で苗木が少なくなったから、うんと売れた。「遅霜に苗が少なくよく売れる」ということだと思うが、「底つき」でもわかる。

◯2点

金印の一字が大き遠郭公            洋子

城取…金印は黄金製の判印。先日吟行した山梨の大門碑林公園(中国第一級の国宝の名碑を復元し、日本で再現した公園)でのことだと思う。そこに金印の文字があり、遠くの方で郭公が鳴いている、歴史を思う心情が表われている。

作者…金印が本当に一字だけ大きかった、「倭奴国王印」と読めました。

◯5点

松蝉の声に膨らむ松林    喜久恵

城取…大芝高原の春蝉のことかな。あそこは赤松だらけ、もう松蝉が鳴いていた。わかりやすい俳句だね、リズムがいい。

◯5点

卯の花や傾ぐ廃家の平家谷         純夫

城取…平家谷はかつて平家の落人が住んだ谷。新潟県の村上や秋山郷にも平家谷がある。もう家は少なくなっているが、平家の赤い旗が立っていたりする。かつて平家の住んだ家もすでになくなり、そこに卯の花が咲いている。平家の悲しさを卯の花が象徴している、そういう句。

◯1点

親の姿見てか見て取る田草取り              芳子

城取…田草取り、皆さんしたことある?親の田草取りを見て同じ様に田草取りをしました、という句。今月の「みすゞ」に「沢瀉の花のあわれを二番草」という句をあげたが、沢瀉の花が咲く時分は二回目の田草取りの時期。沢瀉の花は綺麗だが、あれをむしり取らなくちゃいけないわけだからね。

◯6点

咲き終えて牡丹の花の吐息かな              𠮷子

城取…牡丹の花は、ぽたんと音を立てて土へ落ちていく。それを比喩として吐息だと言っている。見たことをしっかり身体で受け止めて表現している句。ただ「咲き終えし」としたい。「咲き終えし牡丹の花の吐息かな」で違和感がなくなる。

◯4点

梅雨の月寄り添う星やメール来る          ゆう子

城取…おそらく「見て見て、梅雨の月に星が寄り添っているよ」というようなメールがきたことを詠んだのでしょう。「梅雨の月に寄り添う星やメール来る」がいいかな。

◯1点

ビル五階蟻の一匹うろうろす      洋子

城取…これは城取信平が東京に行った姿だね(笑)。私みたいな田舎者は、都会の5階に上がっていってもうろうろして蟻のようだと。蟻を擬人化した面白い句。

作者…これは写生句です。蟻は「どこに行ったらいいのかな?」というように、東京のビルの5階で本当にうろうろしていたのです。

◯4点

病癒えし師のコカリナや若葉宿              喜久恵

城取…かつての恩師の病が癒え、コカリナを吹いてくれたと。若葉宿とコカリナの取り合わせがうまい。コカリナを吹く人の姿やその場面が見えてくるような句。若葉宿がぐっと落ち着かせる。コカリナ「や」も効いている。

作者…高校の同級会をしました。80歳になる先生は肺に影があって手術したそうですが、「病巣の場所と名医に恵まれて今ここにいます」と。今、コカリナの市民講座もされていて、とても嬉しかったので。

◯2点

富士山は指差す方らし梅雨の旅              都

城取…吟行会のとき、「あの向こうに富士山があるんだよ」と。我われは東京へ行くとき、「ああ、見えた見えた富士山が見えた」と必ず指を差す。そういうことだね。

作者…富士山は少しも見えませんでしたが(笑)。

◯3点

明るさの残る夕餉や冷や奴         定子

城取…夏至の宵の感じ。まだ明るさが残っている時間帯、夕飯に冷奴が出てきましたよと。そんなことを詠んでいる。冷奴、美味いね。

◯4点

傘立の水甕に罅夕郭公     彰

城取…水甕に雨傘がいっぱい立っている。長い年月が経ちその水甕に罅が出てきたと。罅と郭公とは面白い。

 

▲当時は夏至から十一日目の半夏生。半夏生の花とともにニッコリと。

 

◯6点

まだ星の匂いの残る草を引く      ぽぽな

城取…「まだ星の匂い」だから、朝方の草刈りを詠んでいる。リズムもいい。

◯11点

蛍火の縺れあうとき闇匂う         ぽぽな

城取…11点で今日断トツの句。辰野のほたる祭りもう終わった?

作者…その辰野のほたる祭りで作りました。はじめは冷夏で蛍は出ないと言われていましたが、少し蒸した日で、たくさん見ることができました。

女性…上手だね(笑)。本当に胸を打つ句をつくりますね。今日はすばらしい句に出合えて感激です。

城取…昔は周辺に蛍が舞い、竹ぼうきで採ってきては寝床の蚊帳の中へ放して寝ていた。ヘイケボタルではなく、ゲンジボタルね。ゲンジボタルの光は強く、光る間隔も長いので、優雅な感じで色もいい。

 

★句会が終わると、皆さんがササッと動き、第二幕目へ。各人持ち寄りの手作りの漬物合戦が展開され、あっという間に紙皿は各々の漬物やお稲荷さんなどでいっぱいに!! 歓待くださるお気持ちが実にうれしい限り。女性陣は句会後のこの時間が楽しみということで、毎回開催されているとのこと。手際の良さからも、そのことが伝わってきました。伊那は確かに遠く、田舎ではありますが、豊かな人と心、自然に包まれた街でした。(木戸敦子)

▲手づくりの品々が首尾よく分けられる

▲手づくりのなどが皿いっぱいに